春の原野で見たイトウ

春の原野で見たイトウ。友人Ａ氏と計画した原野でのイトウ探訪記。北海道版の地形図を見ると、原野には手付かずの広大な面積の中に流れる蛇行を繰り返す川。そして、核心部の中には道路や橋、電柱、護岸、砂防、畑、人工物は全く見当たらない。北海道、春の原野で幻の魚を追うには文句のつけようのないロケーションだ。 札幌でコブシの花が咲く頃、北海道の春、原野で現地２泊３日の予定で行く、Ａ氏所有のカヌーに私と２人、この時まだ見ぬ幻を夢見、未知なる幻の世界へ旅立った。 　 　 　北海道、春の原野は様々な命に満ち溢れている。季節は春、湿原に囲まれる原野から、出発地点からの眺め。幻の魚と出会う期待に胸膨らます面積3.47ｋ�uの先にある春の原野に流れる原始の川。夢の巨大魚は姿を見せてくれるのだろうか、春も開けて間もない頃、雪代はすでに終わり、原野の源からやって来る下りのイトウが姿を見せるはずだが、北海道の原野、春では２泊３日では全て攻めきれない。 　　　　　　 　原野の春は、イトウにとっては息を吹き返すに絶好の季節。若干風がある小波が立つ中、がむしゃらに漕ぎつづけ辿りついたアウトレット。小さな波紋が幾つか見え、すかさず竿を出す私とＡ氏。目的地点まで後１０数キロある長旅、原野の一端では粘らず先へ進む。 　北海道、春の原野、雪代で水量が増しているにしても、とにかく深い。平均して水深５ｍ前後の流れがつづく川。北海道の原野で見られる川として、これだけ深くゆったりと流れる川は国内でここくらいではないだろうか、ゆっくりと先へ進むと草むらの隙間から何か光るものが見え、鳥が群がっている。なんだろうねあれ？大量に捨てられたウグイの山！そう言えばここ原野の森へ入る前、遠くから見えた漁船？と思われるボートがうろうろとしているのが見えたね、あれじゃない？確かシジミ漁も盛んにおこなわれているし？と言うことはイトウも獲れれば？しかし、ここは漁をしてはいけない場所のはずだが、いったいどうなっているんだろう？ カーブを３つほど過ぎたあたりで妙な音が聞こえてきた。ドッボ〜ン！ゴボン、バシャ、ちょうど音が聞こえる、その視界に入った時、合流点となる辺りで沢山のイトウが小魚を追って跳ねている光景に遭遇。これは凄い！北海道の原野、春にこれだけのイトウが見れるのは滅多にない。 　原野の森に湛えるとある自然に創り上げられた水路の合流点、Ａ氏と私はその跳ねている真上にカヌーを進め、ルアーを取り出しキャストする。イトウの季節、春だから、きっと釣れるはずだ。ところが、相変わらず跳ねているが、全く針にかからない？そのうちカヌーが流され元居た場所に戻される。流心、笹の生え際、合流点、あらゆる場所で跳ねている。何度キャストしても一向に針にかかる気配がない。ライズしている近くの岸にカヌーを寄せ、陸からお互い左右に分かれて狙うことにするが・・・ 　　　　　　 　目の前で沢山のイトウがライズしているのだが、全く針にかからない？ちょうど今が満潮で川の流れが逆流してる。岸から水面までの高さが１ｍほどで、すぐ足元下の笹の際でも跳ね、工夫し何度もキャストするがどうにも掛からない。何故だろう？姿の見えないＡ氏が叫ぶ！わ〜！デカイ〜！急いでＡ氏の元へ駆け寄ると、巨大なイトウがヒットし２〜３度頭を振った後バレタと言う。今思えば、ここのイトウはすれていた可能性が高い。通常、跳ねている近くにキャストすればそのうち掛かるものだ。かなりの数がライズしている中全く釣れない、そのうち潮が引き平水へと戻り始め、ライズがピタリと止まった。 　 　この場を諦め、目的地点を目指す。予定していたテント場を確認し、目的の○○○を目指す。 原野の森を流れる川としては全て最高のポイントと言っていい箇所で、気になるところは全て竿を出している。○○○と本流がぶつかる合流点、ここでライズを確認したのみで、後は全く気配がない。 　　　　　　 　幻の魚が潜む北海道の原野、全く流れのない状態で爽快に先へ進み、目的としていた楽園の地に辿りついた。我々が見ている地形図が古いのか、川が流れ込んでいるはずのインレットが見当たらず、適当にクルージングする。予想に反し、浅瀬ばかりでカヌーの底が擦るほど味気ない。風の無い静かな空間を流れていると、遠くで空高く飛び跳ねる魚の姿が目に飛び込んできた！よし、あそこに行こう！と、浅瀬の中を乗り上げ、泥の上を滑らせるように近ずくと？何だあれ？何十匹？百匹？ものコイ！だった！残念！イトウだったらどんなに泣いて喜んだことだろう、コイでは仕方がない。 　　　　　　　　　　 　来る途中確認したテント場まで戻り、そこでキャンプを張った。鏡のように静まりかえった空を映す流れ、辺り一面は手付かずの原野で目印になる山も見えない・岸に上がれば硬い石もなく密集する林も無い。川の水は使えないが船には詰める。地図上で誰でも確認できる幸せの大地だが、その価値は来た者にしか分からない世界だ。 　　　　　　　 　Ａ氏と２人、空気の音と鳥のさえずる声、たまに跳ねるイトウの雄姿、原始から変わることなく今まで時を刻んだ大地。この光景を見つめながら、かつてこの地を歩いた生ある者の姿を想う。 　 　イトウ、未だに尽きることのない思い。太古から生きつづける、その巨大な体には長年にかけ刻まれた王者としての豹紋、拳が入るほど大きな口に鋭い歯、そしてなんとも言えない感触の肌と優しい目が、今もなお私を魅了している。北海道、春の原野で旅するイトウ探訪記はこれにて・・・ 　 　　　　　※ここで掲載している画像の使用、又は画像転載を固く禁止いたします

イトウと岩魚２足のわらじ　　　北海道のイトウと岩魚　　　　北海道のイトウ　　人物紹介　　　　 　　　　　　　更新履歴　　　　　プロフィール　　　　　書籍文献紹介　　　　　　　意見感想