岩魚「鱒」宿る裂線の水脈を巡る

岩魚が目指す灰汁濃い世界

2匹の岩魚を塩焼きと刺身、岩魚寿司にして短い夜を迎える。もう１人隊員が欲しいと中橋さんに陳情したところ、こんな答えが返ってきた。では口説いてみます・・・えっ、誰をですか？まさか今更、yさんを口説くわけではあるまい・・・と、私は心の中で呟くと、そのyさんをなんとか山行に誘う、いや、荷物持ちの１人として、隊員の１人として「口説く」と言うことらしい。

「近」代人、ブランド志向だとかの彼女を口説くのがどれほど至難であったかは想像におまかせするが、まさかあそこまでやるとは・・・最初で最後になると思っていた源流紀行は、その懐へ誘う目覚めの一歩になるとは・・・ノーメイクで写してごめんなさい。・・ちょっとした小川でラッコ泳ぎの特訓をするyさん。頑張れ！北海道初、蝦夷羆自由部隊に入隊ですよ！岩魚の大きさなんてどうでもいいですよ。それが中橋さんが溢す最近の口癖、岩魚の大きさがどうでもいいとは言っても、私が納得できません。北海道の夏も最盛期に達し、この後は駆け足で季節が去ってゆく。巨大魚と出会うタイミングさえ間違わなければ絶対です・・・

遡上魚が川に入ると餌は摂らない？そんなことはありません。そのタイミングさえわきまえていれば、幻の巨大岩魚を手に出来る。

７時間の遡行で、今日一日も後僅かとなった頃、岩魚と戯れるのは止めて今晩の食卓を飾る２匹の岩魚を獲るために、減水ぎみとなっている落差１ｍほどの溜まりに針を投ずると４０ちょっとの遡上魚ものが釣れる。

獲ろうと思うとなかなか都合のよい２０センチほどが姿を見せず、一番逃がしたい４０超えが次から次へと針に掛かり、やむおえずその中の一匹を岩魚寿司のネタとしてキープし、最後に２尺ものを釣り上げ万歳三唱で竿をたたむ。勿論、２尺岩魚は逃がした・・・

遡上して間もない岩魚が群れる薄暗い青緑色に染まる水界を覗いてみると、目の前に流れてくる小さな木くずや葉っぱを口にしてはぺっ、と吐き出している。感触のよい虫などが口に入るとゴクンと飲み込む。タイミング、手段、優先順位、タナ、それと情熱さえあれば・・・

岩魚と雨鱒の境界線

道産子は大きな岩魚のことを雨鱒と呼ぶ。その定義は何か、海に一度も降りたことのない人造湖やダムの上で見られる魚道の無い、機能していない区間に居るものは一生涯、どんなに大きくなろうとも岩魚でしかない。雨鱒は生涯の殆どを海で過ごし、産卵する「直前」に川を遡り、それを終えると数日中に再び海へ降る。では、一度でも海に降れば雨鱒になるのか？この辺は拘りになってくる。岩魚の遡上魚とは、淡水に依存する時間が長く、状況によっては産卵後も川に残り、時には数年間にも渡り川で生活を送る。雨鱒とは異なり遡上が５ヶ月以上と早まることもあるのが特徴。主点の密度や顔つきで判断ができ、それが居る地区を、私なりにそれぞれ何ブロックかに分け線引きすることが出来る。ちなみに私は雨鱒にはさほど興味は無い・・・

岩魚が目指す灰汁濃い世界