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６年前に夢を抱いた憧れのロシア、ソビエト社会主義共和国連邦という身の引き締まる閉鎖的な時代から解放的な社会へと時が流れ、今では冒険者や釣り人、観光客までもが容易に入国できるまで身近な国にへと変わってきた。
世界で最も広い国土面積を持つこの広大な大地には、日本列島をはるかにしのぐ距離で流れるレナ、エニセイ、オビィ、アムール川が大地一面に雄大に流れ、そこにはイトウの仲間タイメン。釣り人が夢を抱く２ｍを超す幻の巨大魚が今も生息している。
去年の秋、どちらかと言うと岩魚派である友人Ａ氏からロシアへ行くとのメールが届き、とにかく大きいもの、１ｍにまで成長した岩魚、或いは日本で幻の魚と呼ばれている１ｍを超す巨大なイトウとどうにかやりとりをしたい！と言う内容だった。私も２度しか行ったことがなく、特別詳しい訳でもない。しかし、これまで得た知識と経験、信頼できる方からの情報で断言できる。タイメンではなくイトウ、北海道に生息する種と同じものを狙うべしと伝えた。そして・・・
文 仮にＡ氏とします。
ロシア遠征
「自然のままの川で釣りをしたい。」ここ数年の私は、そんな事ばかり、考えてきた。しかし、日本国内に自然のままの川などあるのか？
残念ながらそんな川は、文明開化以降なくなってしまっている。それなら、国外で！というのがロシア遠征の発想の始まりである。
思いつくのは簡単だが、実際に行動を起こすとなると、まず金の問題。次に時間の問題。などなど、様々な問題が浮上してくる。それらのすべてを解決して今回の一生に一度きりの？
ロシア遠征が実現した。そして、１ｍオーバーのタイメン(イトウ)を釣ることを目標にした。
７月３０日（１日目）
この時期、ロシアでは既にガルブーシャ（カラフトマス）の遡上が見られ、そこらじゅうでジャンプする姿が見られる タイメンのポイントとなる流れのゆるやかな場所は、急な流れを遡上するガルブーシャの絶好の休み場所となっていた どこにキャストしても釣れるのはガルブーシャだった。
７月３１日〜８月１日（２〜３日目）
なんとか、タイメンを釣ろうと狙うポイントを変えた。岸よりの小場所を丹念に探るようにした。ガイドは、「そんな事をしても
・・・」という顔だったが、小一時間ほどで待望のヒット。６０ｃｍ程だが、狙い通りの一尾だったので満足。
しかし、この方法では、大物は釣れなかった。
８月２日（４日目）一生忘れられない一日
いろいろなポイントを試し、ルアーも変えてみて、ガイドの一押しトローリングもダメで・・・「もう、大物は無理かな。」と半ばあきらめの境地。この日は、ガイドの言う通りの場所を攻めた。釣れるのは、ガルブーシャばかり、ほとんど背中にスレで掛かって魚がかわいそう。
そんな中で、ガルブーシャがあまり掛からないポイントがあった。「ここならやりやすい。」と、３０分程、やる気なくキャスティングを続けた。すると、突然、大きなアタリ。あっという間に竿がのされて５０ポンドＰＥラインが出ていく。魚は、自分よりもはるか下流でヒットしたのだ。なんとか、竿を立てて「ビッグ・タイメン！」とガイドを呼ぶ。ポンピングで寄せたいところだが、竿が寝過ぎると、次に竿を立てられない。自分が下流に歩きながらラインを巻く。そして、上流にゆっくり後ずさり。これを繰り返して、少しずつ寄せた。
この時、ずいぶんラインを巻き取ったはずなのにリールのラインはいつもの半分位の所までしかない事に気づいた。後で分ったのだが、ＰＥラインは、普段は「ふわっと」巻かれていてかさばってしまう。この時は、かなりの力で引かれながら巻いたので、糸のかさが減って見えただけだった。そう、ラインが伸び切っていることに気づかなかったのだ。
ガイドが「こっち（陸）に寄せろ」と手招きする。しかし、まだ弱っていないと判断し、さらに上流へと引き魚を弱らせた。なぜなら、魚が水から出ると、一気に重みが増し、頭を振られたらラインが切れてしまうからだ。
そして、魚が見えた。「デカイ」２５ｃｍのミノーが、日本で買った時は、いくらなんでもデカすぎると言われたミノーが小さく見える。ミノーの長さより魚の巾の方が大きいのだ、はっきり見えるのは、頭だけ、尾の方は遠くて見えないという状況。
一体どうやって取り込めばいいのか・・・今までこんなスゴイ奴を取り込んだ経験など全くない。「十分に弱らせて浅い方に寄せて、手で押し上げる。」これしかない。そう思って、陸に向けて寄せはじめた。巨大な黒い影が水中で向きを変えようとしたその時、激しく頭を振った。「あっ！」と、思ったその瞬間、ラインが切れた。それまで、大きく弧を描いていた竿が、真っ直ぐになっている。目の前の水中には、２５ｃｍミノーをくわえた黒い影がじっとしている。ラインは切れたが、魚は相当弱っている、水深はひざ位。私は迷わず魚に歩み寄った。手の届くところまであと一歩。左手を出した瞬間、黒い影は反転すると、こんな力がどこに残っていたんだろうと思うようなスピードで流芯に消えていった。
真横から見ていたガイドによると１３０ｃｍはあったという。しかも、頭がとてつもなく大きかったそうだ。そいつに逃げられたあと、船外機を見た私は、色といい大きさといい奴の頭にそっくりだと思った程だ。
キャンプに戻って、どうやって取り込むか？の話をした。キャンプのボスによると大物の取り込みは本当に難しい。確実な方法は「ライフルで撃つだけだ」と、事も無げに言っていた。
８月３・４日（５・６日目）
「夢よもう一度」という思いと、あいつが３０ｃｍ小さければ、取り込めたのに・・・という思い。ガイドは、「ビッグタイメンはたくさんいる。」と、言う。
しかし、タイメンのポイントがその１ヶ所しかないのだ。
日本ではやらない雨の中での釣り、６０ｃｍ程のシーマが婚姻色に包まれ文字どおり桜マス。こんなにきれいな魚は初めて見た。
あと一日、なんとかメーターオーバーを。
８月５日（７日目最終日）
最後のチャンスと、例のポイントに立つ。正確には、奴を逃がしたやや下流、そこは唯一のトロ場で、多数の倒木があり、奴もここに隠れていて、たまたま餌をとりに瀬に出た所でルアーを食ったと推測された。流木に船をつなぎ船の上から狙った。場荒れさせないように小さめのミノーで始め、すぐに４０ｃｍ程のタイメンが掛かるが、ヘビータックルなのでリールを巻いて寄せてくる時に「あれ？バレたか？」と思ってしまうほどあっけない。
一番大きなミノーに変えて数投目。グンと大き目のアタリ。ヒット直後に走らない、シーマやガルブーシャの背中掛かりではない、タイメンだ。しかし、そんに大きくない。少なくとも逃げた奴よりずいぶん小さい。十分取り込めそうだ。ラインが出ているうちに十分泳がせ、船に寄せる。ガイドがヒレの所を持って船に上げてくれた。
１ｍ位か？メジャーは持たない主義？なので、手を広げて２０ｃｍ何個分かで、一応検寸。手が４つと半分。メーターオーバーではなかったが、最終日にやっと手にした大物だった。
今回、Ａ氏が訪れた時期が８月と言うことで、未知なる季節に行ったことになる。私が最後にロシアへ行ったのは２年前で、イトウにとっては一番良い季節５月下旬から６月上旬にかけての頃、その時はあまりにも早い時期に行ったせいで、巨大イトウの姿は無く良い釣果も得られなかった。
その時、現地スタッフに言われた言葉は”何故この季節に来たのだ”雪代も終わっていなく産卵も終わっていない時でもあるのに・・・
特に相手がイトウとなると、あの瞬間を独り占めしたくなるもので、自分以外の者と肩を並べて竿など振れないものです。もし他の誰かと肩を並べて竿を振るとなると隣が気になって自分の釣りが集中できなくなってしまう。そんな事で、なかなか良い時期に我がままな時を過ごすとなると、かなり難しい。それを思うとＡ氏が訪れた季節は冒険するに値する時だったと思う。単に、仕事がらどうしてもこの季節にしか行けなかっただけのようです。
Ａ氏が帰国して私にこんな事を言った。大きいのが釣りたかった！これで最初で最後にするつもりだったのに、あんな巨大なものをバラしたのが今でも頭に焼き付き、悔しくてたまらない。また行く理由ができてしまったよ。
次に行く時は２年後、それとも５年後？今度は２人で未知なるタイメンを挑戦しようと約束をした。
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