核廃棄物が捨てられる川にイトウが？

イトウの雌が泥岩石の敷き詰められる川底で堀を作る。

人口２８００、主な産業は畜産、町の面積の殆どが採草地と化している穏やかな山の懐にイトウが自然回帰する川が存在する。事の発端は、以前、出張した先の宿で泊まった主人からの情報で、排水路と姿を変えた上流に設けられた魚道付きの落作工の下に毎年、春になるとイトウが遡上出来ずに溜まり、いつの頃だったか捕まえたことがあったと言う内容だった。

えっイトウが！あんな所、あんな川に上るんですか？根掘り葉掘りと宿の主人から詳しい場所を聞き出し、イトウの産卵時期としては既に遅い５下旬、当時、職場の上司であった方と２人で、その場を確認しに行った。勿論、その時は既に雪代は終わり、流れも渇水し減水ぎみな状況で、イトウの姿を見ることは出来なかったが、翌年の春、再びその落作工へ向かうと、宿の主人が言っていたように１２頭ほどの９０センチを超える大きなイトウが、その先へと上れずに小さな溜まりの中で背鰭を水面から出しウロウロとたむろしている場面に遭遇する。

河川の７割以上が３面ブロックにより護岸され、その流れ全体が直線化された状況で、落作工より上の流れも浅くなり、たとえそれより上へ遡上できたとしても源へは到底、辿り着けるものではない。そんな光景を何とも煮え切らない心境で３年見つめること、核反対！核、反対、と言う看板が、イトウが帰る支流に沿って走る農道の道端で頻繁に目にするようになり、落作工より数百メートル上流のすぐ側では大きなやぐらが建造され、関係者と思われる車が忙しく出入りしているではないか。何？まさかこんな所、イトウが帰る流れの側に「核廃棄物」が捨てられる？

それから数年経った２００４年。この支流と河口を共有するもう一本の支流へと向かう。イトウの居る所なら可能な限りどんなとこだって行ってみたい。車中泊で２週間、イトウの川を巡る最初の川、長い時間歩くことと、全く利益を追求しない個人の価値観で臨む為、今回の旅は同行者を頼らず挑む気持ちでいた。そんな時、以前アルバイトをしたことがあった某会社、環境何某部に所属する中橋さんが、現地で合流し私の奇特な行いに付き合ってくれるというのだ。本当に申し訳ない・・・と言う心境です・・・その為に貴重な休みまでも作り、残雪の多い原野の森、その奥深くへと誘ってくれた。

イトウ止めの滝。初日最終日を飾る一枚、撮影：中橋正行　ポドゾルの川、最源流部に立ちはだかる。真ん中に立つのは池田こと私です。ちょうど私の頭が見える辺りが滝の上限で、およそ落差は４ｍ。滝の落ち込みは極めて浅く、手前３０メートル下流で一匹の雄イトウを確認。過去、黄金期では滝の落ち込みから上流を目指そうと、巨大なイトウが果敢に上ろうとしたのでしょう。