大イトウが帰る最後の森

イトウの産卵観察紀行、その地を巡る途中、不幸の連絡が入り通夜と告別式へ参列するために急遽、札幌へと戻る。帰宅した翌日、滅多に会うことのない親戚一同と顔を向き合わせ悲しみの酒を交わし、故人が青春時代を過ごした島根県での時間、旧日本軍に撃沈されたバルチック艦隊の乗組員「兵隊」が隣の鳥取県の海岸に打ち上げられたことや、現在はダムの下になっている故郷での話を想いだしたり、生前歩んだおばあちゃんの歴史を偲んだ。

そんな時でも頭の片隅で音を立てるのは、雪代水が溢れ出る森の源、その白泡せせらぐ浅い流れ出しで揺らめくイトウの姿。強烈に赤く染めた雄の婚姻色の魚体が濁った白泡の中で揺らめく場面。雌を巡って争う雄イトウの戦いなど、この季節でしか見れない世界があと僅かで終えてしまう。観察紀行の要は旅の前半で中橋さんと巡っているので、後は水界でイトウ相手にシャッターを押すだけ。早くイトウの所へ戻りたい・・・

この場面は上の画像を後ろから見た姿。流木の手前で疲れた体を休める雄イトウ。５０年に一度の大雪の影響なのか、今年は雌があまり見られなかった。

おばあちゃんの告別式を終えた翌日、姉夫婦を自宅へ送るべく帰路へ向かう道中、お兄さんの携帯電話が鳴る。北海道赤平市から治療のため、私が住む札幌の病院で入院していた「伯父さんが亡くなった」・・・？おばあちゃんの告別式を終えた翌日、つい先程、親戚一同、見舞いに行き、病室で意識を失い酸素マスクを付け苦しそうに床に沈んでいる姿を見届けて間もない２時間後のこと、姉夫婦を降ろした後、病院へと直行する。

人それぞれが歩む人生は様々であるにして、当時、結核を患い輸血した事が原因で、しばらくした後にC型肝炎となって・・・生前、定年を迎えるまで「教員」を務めていた伯父さんだが、私が当時まだ釣りを始めて間もない９歳の頃、北海道深川市吉住の学校で校長をしていた故人となった「おじさん」が居る村へと家族でよく遊びに行ったものだ。

その当時、私がそこへ行くのに楽しみにしていたのが、校舎で養殖していたニジマスを見に行くことだった。山の麓に建つ校舎から、５０ｍほど道路を挟んだ下の池には成魚となる大きな虹鱒が黒い帯状となって回遊し、池を渡すアーチ型の赤い橋の上から餌をやったり、頭上の枝から虫が落ちる際に果敢にジャンプする光景を見たり、昆虫採集にカエルやサンショウウオなど、当時としてはまだ感受性が強い年頃の私としては、色濃い自然の中で遊べるのが楽しみだった。そんな幼少の頃に刻んだ体験の一つが、今ある私の基盤を作り上げたのだろうか。そんなことを想い出しつつ、イトウの地へと急いで向かう。

本題へ戻ります。急いでイトウの地へと戻る。イトウの森が消える日で紹介した破壊された産卵床の流れ、コルゲート管を用いての部分が見当たらない。昨年記録した位置をＧＰＳにて辿ってみると、上記の画像近辺になる。この状態でも３０分に一匹の割合でイトウが行き来したので遡上降下は可能だ。まあとにかく、明らかに必要とされていない公共事業、我らの「税金」が「不必要」に浪費されている事は「犯罪行為」としか言えない。それもイトウが自然回帰する聖なる森の流れに刃を入れるなど、いつの時代か「裁かれる」べきであろう。ここに限らず・・・

大きなイトウが見れる川の条件とは

自然回帰する数というより、大きなイトウが見れる川の条件。それはこれと「断言」できる。産卵する源までの川沿いに「道路」が走っていないと言うことと、そこを囲む原生の森が色濃く残されていることにある。上記の画像、新たに突き進む我々の税金が無駄に「浪費」投げ捨てられている公共事業によって、これまでメートル超えの巨大イトウを育て守ってきた空間は、これを境に、この時代を境に変わっていくことだろう。

ここの川、この源でこれまでどれだけの巨大なイトウを見届けたことだろうか、メートル超えのイトウが数見れるのは、何はともかくここに限られる。これが北海道の「光と影」なのです・・・我ら日本人は、ある意味で「良い子ちゃん」をそろそろ卒業しなければならない。そして、自分達が支払っている「税金」がどんな事に、どんな場所で使われているのか？決して、こんな場所で投げ捨てれられて良いはずがない・・・勿論、イトウの為にも私のため？にもならない。