高層湿原へと注ぐ大蛇行する源を行く

濁流の中を遡上するイトウは蛇行する屈曲部、流れの緩む岸際に覆い被さる笹の間で体を休め、ゆっくりと速やかに上を目指す。

森の中を大蛇行する源

イトウが自然回帰する川を巡る。・・・・・物が捨てられる川を巡った翌日、前日に出会った喜びも冷め遣らない、残雪の中を歩いた疲れを今日に残し、いざ大蛇行する源を行く。

中橋さん、ここの道のりは長いですよ、これが今旅の要になるかもしれないと、かつての蝦夷が築いた傷跡が見れると私が抱く熱い期待をさり気なく押し付け、某有名な落差の落ち込みで毎年ｍ超えのイトウが数匹釣られていると言うことなど、これまで数々の伝説を残す言い伝え、運が良ければ１ｍ４０センチをも超えるイトウが見れるかもしれないと春の観察紀行を昨年にてささやいていた。

地形図とＧＰＳを片手に片道７キロはある森の先へと歩いていると、固く締まった残雪の上から湯気が立ち上がっているのが見えた。歩き始めてまだ数百ｍと進んでいない地点、それを見た私と中橋さんは一瞬にして血の気が引いた。この糞がある辺りをよく見ると、固く締まった雪原に真新しい羆の足跡が印されている。

これは引き返した方が無難だろうか・・・今回、休暇をとるのに一部、虚偽の報告をして仕事をさぼってきた私は、最悪の事態を想像し身内や職場の仲間たちの顔が目に浮かんだ。イトウの産卵観察するためだけに、何の利益も発生しない奇特な志をもって、中橋さんにまで迷惑をかけては一生取り返しがつかない。

北海道でイトウと岩魚を追い回し、これまで何度か羆と遭遇している私でも、原野といった平坦な森の中で羆の気配を感じた時は、パニックを起しそうになるほど恐怖を抱く。平坦な大地が続く原野は、羆にとって身を隠す場所が限られてくる。もし、はちあわせした場合、その瞬間、羆は体力がつづく限り平野を駆け逃げるか、それとも殺かしかの選択しかない・・・体を隠す場所が少ないと、こちらも身の寄せどころに困ってしまう。

GPSを頼りに先を目指すこと、目標の半分も到達していない地点に指しかかった辺りで、本流を上り詰めるかそれとも手前の支流へ行くかと悩んでいた。車止めとなる地点を出発したのがＡＭ：７時ごろ、目標の半分も来ていない現在の箇所では、１０時をまわっている。今回は残念だ、本命である本流は難しい。手前の支流を上り詰めることにする。

次回へつづく・・・